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両手にしゃもじを持ったらば

5次槍弓、腐女子向け小説サークル「両手にしゃもじ」です。意味がわからない方はお戻りくださいませ。 主にオフライン情報や通販のお知らせや日々のつぶやきです。

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2014年8月17日、コミックマーケット86にて新刊におつけした無料配布本、全文です。
ただしこちらは赤弓総受け、槍弓も入ってはいますが最初のは4次槍なので、全編5次槍弓ではございません。他のお相手はギルガメッシュ、イスカンダル、ディルムッドです。
5次槍弓以外は受け付けない、という方はこのままお戻りください。
あやしい表現はあり、赤弓が迫られてはいますがR-18ではありません。
基本的に、4次5次両マスター・サーヴァントともに冬木で暮らしているという私得設定での一幕です。
弓の乙女回路ががんがん回っておるのは当サークルでの仕様なんですすみません。


いいですか?大丈夫ですか?
赤弓が愛されててモテてたらイイわ、という方のみ「続きを読む」からどうぞ。

拍手[70回]












  ■vs.ギルガメッシュ
「こちらを向け、雑種」
 ぐい、と顎に強い力がかかり、エミヤは上向かせられた。
 エミヤはむっと剣呑な光をその鋼色の瞳に浮かべ、傲慢な赤い瞳を睨みつけた。
「雑種は貴様のほうではないかね、ギルガメッシュよ」
「なんだと」
「私は正真正銘『純粋な人間の庶民』だ。君は確か、三分の二が神の血だろう。そうなると、三分の一は人間ということで、君こそ『雑種』ではないか?」
「…矮小なる身で、我を雑種呼ばわりとは。そのような芳醇な香りで我を惹き寄せておきながら、我を怒らせる気か」
「は? 何を言っている。いつにも増して、貴様の言うことは意味がわから」
 顎にかかった指により強く掴まれて、エミヤは言葉を失った。目前の赤い瞳が、いつもの嘲笑を浮かべていない。
 いつになく急くような、飢えるようなその光にエミヤは息をのんだ。
 なんだこの顔は? どうしたのか英雄王、と尋ねようにも、燃え上がるようなその真紅の瞳の神性の強さに呪縛されたようにからだが動かない。
 否、呪縛されているのは精神のほうだろうか。
 つ、と冷や汗が背中を伝う。これは危険だと、頭の中で警報が鳴る。
 逃げなければ、囚われる。
 けれど…まるで金縛りのように、呼吸すらも奪われて、ただ目前の赤い瞳を見返すことしかできない。
 己の格の低さが恨めしかった。
 はふ、と呼吸を求めてなんとか開いた唇に、ギルガメッシュの視線が動いた。吸い込まれるように顔を寄せてくるのに、エミヤの白銀の瞳が見開かれる。
 く、と息を詰めそのまま食いしめられようとする唇に、ギルガメッシュの薄い唇が触れる寸前、エミヤは凄じい勢いで首を振った。
 突然逸らされた顔に、ギルガメッシュの唇は褐色の頬の肌をかすめる。
 不満そうにすがめた瞳で探れば、研ぎ澄まされた刃の瞳がギリ、と横目でギルガメッシュを射殺さんばかりにねめ上げていた。
 触れれば斬れた、と自覚するよりも早く血があふれるであろうその鋭さが、ゾクゾクと悦を呼ぶ。対魔力も低く神性の欠片も持たぬ身でありながら、この瞳の呪縛をよくも破ったものだと、ギルガメッシュは軽く驚きを覚えつつ瞳を細めた。
 いいぞ雑種。そうでなくては楽しくない。せいぜいそうして抗うがいい。どうせお前は我のものになるのだから。
 そうだ、今決めた。
 これは我のものだ。
 この刃を抱き口づけて、血にまみれながら可愛がってやるのは、他では味わえない愉悦だろう。
 この鋭い刃はどこまでその斬れ味を持続させられるだろう。快楽に屈し、ふるえ泣きながら銀色の刀身を淫らなる液でしとどに濡らす様は、どれだけ美しい宝剣と成るであろうか―――。
 危険と隣合わせどころか、危険そのものを腕に抱くスリルに、英雄王の鼓動は高鳴った。顔を逸らせたせいで顕になった首筋に唇を寄せると、濃厚な香りが脳に染みる。
 彼が好むワインの最高級種もかくやというほど芳醇で瑞々しい…しかしねっとりと鼻孔に残る、それはなんとも蠱惑的な芳香だった。
 たまらない。
 思うがまま食らってしまいたくなるではないか。
 知らず引き締まった尻に手を這わすと、びくりとエミヤのからだが慄いて意識が逸れた。その瞬間を逃さずに首に吸いつけば、ぶるっと肌がさざ波をたて、唇から音が漏れた。
「あ、っ…」
 小さな呻きのようなその声に含まれた濃い甘さに、ギルガメッシュは思わず目を見開いた。
 なんと。
 この我が、こんなたった一声に乱されるとは。
 沸き起こった苛立ちをまぎらわすように食いついた肌は、しっとりと汗ばみ実に心地よいなめらかさだった。その肌理の細かさと舌触りの良さに、短い間にこの男に何度驚かされるものかと、笑いがこみ上げる。
 ああ、素晴らしい。
 こ奴はこれからも、こうして我を楽しませてくれるに違いない。
 そうだ…我のものだ。
「や、め」
 肌を楽しみじっとりと舐め上げる舌に、エミヤがぶるぶると身を震わせる。
 しっかりと背を抱いた左腕で彼を拘束し右手で臀部を悪戯しながら、ギルガメッシュはそのからだの反応を楽しみ、濃度を増した香りに酔った。
 そうら、やはり貴様も我が欲しいのであろう。
 こんなにあからさまに誘惑しておきながら、抗ってみせるとはどういう料簡だ。そのほうが我が喜ぶと思っての画策か。
 それならばまだ可愛いものだが、これは本気で解ってはおらぬのだろうな、とギルガメッシュは低く笑った。
 まあ、そこがいい。これからじっくりと、この我手ずから解らせてやろう。
 初なその身も心も、我が開きこの色に染めて、変えていってやろうではないか。
 その刃が我にだけ鞘を開き、おずおずと背を見せる様を考えるだけで身が滾る。その反りはどれほど美しいことだろう。
 早く、それが見たい。見ずにはおるものか。
 ギルガメッシュは口づけた首筋の肌からむわりと立ち昇る魔力を啜りながら、くつくつと喉を鳴らしてエミヤを抱きしめた。





   ■vs.イスカンダル


 衛宮邸のリビングで二人きりになった時、切り出したのは燃えるような赤い髪をした征服王だった。
「のう、アーチャー、だったか? ふむ。そなた…ちょっと、顔を見せよ」
「な!? なにをするっ」
 顎をつかんだ大きな指にぐっとほぼ真上まで顔を上向かせられたエミヤは、喉がつまり息が止まった。
「…っ」
「ほう…そなたやはり、なかなかに愛らしいよい顔をしておるのう」
「!?」
「いや、ちょおっと気になることがあってなあ。ここのところずっと見ておった。その身のこなし、からだつき、そなたの戦いはまだこの目で見たことはないが、間違いなく一流の戦いをこなすことだろう。そなたの姿も実に美しい。時折見せる愛い仕草もわしの好みよ。もっとそなたを見ていたくなったが、どうにもあちこちから牽制が入ってうるさくてかなわんのでな」
「………、はあ…」
 正直何を言われているやら理解ができず、エミヤは怪訝そうに二十五センチ上空にある赤い瞳を見返した。
 神性を宿すその瞳を臆することもなく真っ向から、ごく自然に視線を合わせてくるエミヤに、マケドニアの王は少なからず驚いて赤い目を見張る。
 ほう、やはりこの男只人に非ず。
 どこの英雄かとんと検討もつかないが、またそこも面白いではないか。
 なによりこの、鏡のような白銀の瞳に己が赤い瞳と髪が映り込んでいる様は、何ともいえぬ独占欲を掻き立てて誠に心地よい。
「うむ、つまりだ。結論から言うとな、アーチャーよ」
「………」
 その先に続く言葉には、なんだかいやな予感しかしない。
 それよりも手を離して欲しい。
 いい加減上向かされて伸びた喉が痛くなってきたし、呼吸もしづらいことこの上ない。
「どうだそなた、わしのものになる気はないか? ん?」
 可愛がってやるぞ、と低く囁きながら顔を近づけたイスカンダルは、キラリと目の端で光ったものに反射的に飛びすさった。
 その体躯に似合わぬ反射は流石、ライダークラスの幸運度であろうか。
 目前に逃がした男の両手には、一対の夫婦剣が握られている。まったくもって、如何なる方法で何処から出したものなのか。
 鋭利な刃がぴたり、とこちらに向けられていて、さしもの征服王も身動きがとれず、殺気を受け止める彼はただ唇の端を吊り上げて笑った。
 可愛い顔をして、こ奴。
「…じゃじゃ馬めが」
 まるで己が愛馬、ブケファラスのようではないか。
 あれも猛々しい力で他を寄せ付けず、乗りこなすのは至難の業であった。しかしかのブケファラスは己が影におびえて暴れていた馬。なればこの男の薄皮一枚下も、存外何かを恐れて粋がるやわらかな魂なのかも知れぬ、と征服王は思った。
 ひたりと目前に向けられたこの切っ先とこ奴の瞳は、同じ色を宿している、と感じながら。
「神代の英雄殿の酔狂には、まったく恐れ入る」
 冷たく冴えた音声が、征服王に投げかけられた。
 その、時によってはずいぶんと幼くも見える顔は一切の表情を消し去り、煌々とした月のような瞳は今や、爛々とした怒りに染まっている。
 侮辱された戦士の正しい反応だった。
 イスカンダルに彼を侮辱する気も貶める気も微塵もなく、むしろその価値を認めたから故の彼流の誘いであったなど、エミヤに分かろうはずもない。
「いや…すまん。こりゃすまんかった」
 剣を突き付けられているというのに、イスカンダルはニカ、と愛好を崩して白い歯を見せながら笑った。
「―――」
 ぱち、とエミヤがひとつ瞬きをする。
 その殺気が薄らいだのを感じながら、イスカンダルは降参の形に上げた大きな両手のうち片方で、豪快に赤毛を掻いてみせた。
「いやあ、そなたの手腕を見込んでのことだったのだが。ちょっとばかり無粋な言動をしてしまったな。いやー失礼つかまつった。許してくれ、な、アーチャー」
「………」
 その豪胆さに、神性を宿す赤い瞳に、ふと別の人物を重ね合わせそうになり、エミヤは深く息を吸って首を振った。 
 瞬時に霧散する目前の刀に目を見張るイスカンダルを尻目に、さっさとその長身を翻す。
「…わかればいい。二度とするな征服王」
「あー…そうだな、あんな物言いは二度とするまいよ」
 別の勧誘方法は、いくらでもあるものなあ。
 不穏な空気を感じたものか、エミヤがちら、とイスカンダルを見やったが、彼はそれ以上追及することはなくリビングに隣接しているキッチンへと歩いていった。
「…気分直しに紅茶でも淹れよう。君もどうかね、イスカンダル」
「ほう? そなたの茶を断る理由などない。有り難く頂こう、弓騎士よ」
 侮辱したわけではない、と納得してくれたにしても、先の今で自分にまで茶を淹れてくれるというのか、この男は。
「まっこと、人が好い」
 イスカンダルは気づかれぬよう喉奥だけで笑いを漏らした。
 ブケファラスはその本質をよく見極めることで信頼され、乗りこなすことができるようになった馬。
 また乗りこなすことができれば、世界を支配できると神託された馬だ。
「これは楽しみになってきたのう」
 こうして、この日英霊エミヤはイスカンダルの征服欲に更に油を注いだのだった。





   ■vs.ディルムッド・オディナ


 貴方の真名が知りたい、と、甘く垂れた蜂蜜色の瞳に迫られ、エミヤは息をのんだ。
 驚きを通り越していっそ呆れるほどに美しい男だ。揺らめくひと房の黒髪がかかる顔にはただの一筋の隙さえなく、すべてが完璧に整っている。
 額のライン、頬の曲線、顎の角度。鼻梁の高さからその造形。唇の位置と厚み、強く惹き寄せる淡い血色。
 これだけの華やかさを持ちながら、癖のある髪は派手な色を持たぬ漆黒であるのも計算されているのだろう。
 白い肌を引き立たせる黒髪は、艶やかに後ろへ撫でつけられ、豪奢な顔立ちにストイックさを加味して、却って危険な淫靡さを醸し出している。琥珀色の瞳はまるで稀有なる黄金のようで、かの英雄王ですら一目置いているほどだ。
 完璧な美の中にあってこの目だけが、ゆるやかに目尻へ向かって引き下げられており、近寄りがたい造形美に甘さを与えて見る者を釘付けにする。
 垂れ気味の目と対照的にキリ、と上がった細い眉は意志の強さを伺わせ、男らしさを強調している。
 そして…何よりも彼の者を際立たせている、右目の下の泣き黒子。
 ほんの小さな、神が筆を滑らせて彼を描く際にほんの一滴飛んだ黒い点。それが琥珀色の瞳のすぐ近く、絶妙なる位置に置かれたことで、彼をこの上なく性的魅力に満ち溢れた艶めかしい男に仕上げてしまっているのだ。
 この黒子が生まれついての呪いであると知ったときには、同じ男として何ともいたたまれない心持になったものだ。
 エミヤはまじまじとこの美丈夫を見つめてしまってから、ふう、と飲み込んだ息を吐いた。
「突然何を言い出すかと思えば…ディルムッド。私の真名など、どうでもいいことだろう。ああ、それとも君にとって『アーチャー』とはギルガメッシュのことだったかな。私をそう呼ぶのはまぎらわしいか」
「そうではない、アーチャー。俺にとっても、最早『アーチャー』とは貴方のことだ。それは問題ではない」
「なら何故」
 苛立つエミヤの声に、まろやかなとろみを感じさせる美声が被さる。
「俺は、貴方自身の名が知りたい。貴方をもっと…知りたいから」
 語尾が蕩けるようにかすれ、とんでもない色香を鼓膜に送り込んできた。エミヤは鋼色の瞳を見開き、目前の美形をもう一度まじまじと見つめた。
 何度見てもため息しか出ない彼の顔は、己よりも少しだけ下にある。ほんのわずか目線を下げるだけで合ってしまう琥珀の瞳に閉じ込められてしまう気がして、エミヤは口惜しいと歯噛みつつも目を逸らした。
 それをどう取ったものか、ディルムッド・オディナの真名をもつ英霊はぐいと近寄ってエミヤの左腕を掴んだ。
 逃がさない、と示すかのように。
 その麗しい顔を裏切って、百八十四センチの悠々たる長身を鍛え上げた彼の力は強い。
 上腕部に痛みを感じたエミヤの瞳がすがめられたが、ディルムッドには力を緩める気配はなかった。
「真名を。アーチャー、お願いだ。貴方の名を…教えて」
 すがるように、請うように、甘えるように。
 そんなふうにねだられれば、エミヤが断れないと計算し尽くした言葉と声色で、ディルムッドが迫る。
 案の定エミヤは瞳を伏せて、白い眉を寄せた。
「………」
「アーチャー…お願いだ」
 低く男らしい、しかし上質なベルベットの如き艶を纏う美声が、切ない願いを奏でる。
「…っ」
 鼓膜をふるわす艶声に、伏せられた白い睫毛がふるりと揺れた。磨き抜かれたマホガニーにほんの少量砂金の微粒子を散らしたような肌に、純白の睫毛と眉が冴えわたる。
 眼窩に収まった瞳ですら白に近い鈍灰色で、その配色に目を奪われない者はいないだろう。
 ひっそりと目をそむけようとする彼の思惑を裏切って、その姿はとても人目をひくのだ。
 艶めく肌は肌理細かくしっとりと息づいていて、思わず唇で触れてみたくなる。きっと甘やかな感触だろう。
 困惑に薄く開かれた唇に、ディルムッドの琥珀色の瞳が引きつけられた。
 濃い肌色の上に薄い桃色のグロスを塗ったように色めく唇が、何かを言いたげにわななく。
 望む答えを得られるかと身を乗り出し、どんなかすかな声も逃さず聞き取ろうとするディルムッドを、灰銀色の瞳が映した。
 どれだけの時間待っただろう。
 結局エミヤは答えることはなく、ただ最後に小さく、首を横に振った。
「…アーチャー」
 彼に魅惑の呪いは効かない。
 ずっと疎ましく思い続けてきた呪いなのに、効いてくれればいいのに、どうして彼に効かないのだろうと悔しく思い、ディルムッドは形のよい唇を噛んだ。
「せっかくの唇を噛むな、ディルムッド」
 やんわりとそんなことを心配されても、嬉しくなどない。
 ディルムッドは苛立ち、きゅっと引き締まったエミヤの腰を空いた左腕で強く抱き寄せた。
 ひゅ、と息をのむ音がする。硬直するからだに構わず、己の腰に密着させるまで抱き寄せて、そのまま力を込めた。
 エミヤは上体をのけ反らせるようにして抗い、上腕部を掴まれていない右手でディルムッドを引きはがそうとする。
 エミヤの左腕を掴んでいた右手を広い背中に回すと、しなやかについた実用的な筋肉がきゅっと収縮した。
「緊張しないで」
 せめてもと、発すれば女性たちがとろけてきたと思しき声色を意識して、そっと囁く。
 ふるりとわなないたからだが大人しくなり、抵抗がやんだ。
 しかしその身は密着していなければわからないほどかすかに震えている。まるで男に初めて抱き締められた少女のような反応に、新鮮さと愛おしさがこみ上げてきて、ディルムッドは気付かれぬよう微笑んだ。
 なんて、可愛いひと。
 手に入れたい。
 もう一人の『ランサー』よりも早く。
 この無垢なる魂を抱き締め守りたい。
 きっと己の槍は、己の剣は、そのために在るのだとディルムッドは抱く力を強める。
 と、耳元であえかな息のような声がした。
「は…なせ」
 それは明らかに拒絶の意であるのに、凄絶な色香を伴ってディルムッドを揺さぶった。
 とろけた鋼色の瞳を覗きこみ、ディルムッドはもう一度、己が魅力の全てを籠めて請うた。
「真名を」
「…やっ」
「アーチャー」
 ふるふると、白い頭を振る。今、彼の真名を知る者は彼のマスターたる少女と、彼の過去である少年しかいない。
 エミヤは他の誰にも、己が真名を晒す気はなかった。
 この地に集った名だたる英霊たちに、己が正規の英霊ですらないアラヤの掃除屋であると、むざと知られたくなどなかった。
 しかも、衛宮切嗣を知っているディルムッドに、一度は切嗣のためその残酷な運命を辿らせてしまった彼には、特に知られる訳にはいかなかった。
 知られたくない…と、エミヤは必死だった。
 むごい最期を強制した男の、君が血と共に呪いを吐きかけた男の末裔なのだと、その意志を継いだ者なのだと、この高潔な英霊に知られたらと思うとぞっとする。
 こんなことならもっと早くに教えておくべきだったかもしれない。そうしてそれを承知の上でも、ディルムッドがエミヤを選ぶというのなら、まだ納得もできた。
 けれどもう言うべきではないし、言うことはできない。
 エミヤは後悔と遺憾に胸を詰まらせながらただ、頑なに拒み続けた。
 普段穏やかなディルムッドの気配が剣呑なものを孕み、戦闘狂と言われる彼のもう一面を覗かせる。
「…ディル、」
「どうして」
 怒りを吐き出す声が、エミヤをなじる。しかし言葉を続けようとした彼は顔をあげてエミヤの顔を見ると、苦しげに眉を寄せて口を閉じた。
 己がどんな顔をしていたかわからず、エミヤは戸惑う。
 琥珀色の瞳は涙を浮かべているように見えた。
 濡れて溶け出す濃い蜂蜜のように、ゆらゆらと揺れている。
 何かを決意したように桜色の唇を噛んだディルムッドは、ただ黙ってエミヤの手に、触れるだけの口づけを落とした。
「…?」
 その静けさに却って不安をかきたてられ、鋼色の瞳が空を彷徨う。
 その目尻にも口づけを落としたディルムッドは、もう何も言うことはなく、エミヤの背に回した手を滑らせた。





 ■vs.…?


「なあアーチャー。今晩あいてる?」
「は? 夜は常に街を見回っている。聖杯の動向も窺わなくてはならないし…暇ではない。ないが…なに、どうしたのだ。貴様が私にそんなことを聞いてくるなど余程の用なのか。教会から何か…言いつかったことが一人では難しいのならば、手伝ってやるのもやぶさかではない―ああ勿論、内容によってだが。あとマスターにも聞いてみないといけないが、なに、少しくらいたまには他のサーヴァントに手を貸すことくらい我がマスターとて鬼ではな―――いやたまに鬼だなと思うことはあるがいやそれは―――ともかく、話してみろ」
「…おい、どうしたお前。そんな一気にしゃべって息、大丈夫か。ちょっとゼイゼイ言ってるぞ。深呼吸しろ、ほら」
「……だ、大丈夫だ…大事ない。それよりも君の、用というのを」
「うーん、いや~…いいや」
「えっ」
「なんかお前、大変そうだし。オレの用はまあ、急いでるっちゃあ急いでるけど、そこまで切羽詰ってもいねえから。あと、マーボーは関係ねえから。オレ個人の用だから」
「き…み、自身の…用事が、わたし、に?」
「そだよ。何かおかしいか」
「………い、…いや…」
「お前ほんと、変わった目の色してるなあ。びっくりすると大きくなってかわ…いや、変わってる。綺麗な色だ」
「こっこれは…もともとの色、ではないしそんな…君がお愛想でも褒めてくれるような色などでは」
「なに、元々の色じゃねえって? どういうことだよ」
「―――! すっすまない、今のは言葉のあやで」
「なあ、じゃあ元はどんな色だったんだ」
「………」
「お前どこの英霊か結局わかんねえし…他のヤツラは知りたがってるみてえだけど、オレは別にお前がどこの誰だって構わねえ。知ったからどうってこともねえし」
「そう、だろうな。君のような揺るがぬ大英雄にとって。私などは矮小な存在でしかないし、興味もないだろう」
「ちっげーって。相変わらずトンでんなお前。もっとてめえに自信を持てよ。皆、お前に一目置いてんだぜ」
「え」
「だから知りたがってる。お前がどこの誰なのかを。でもオレは、それを知ったからってお前に対する評価も賞賛も変わらねえと思う。…まあ、お前の真名は、ちょっと…いや、かなり、知りてえ…とは、思うけど」
「な、なぜ…?」
「なあ、アーチャー。オレはお前に興味があるんだ。どうしてだろな。お前とは、特別な縁を感じる。そんな気がする。最初に刃を交えた時から…否、お前の瞳を見た時から、何かがオレの心をくすぐるんだ。お前の特別を知りたい、と思う。オレはお前にとって特別だと、思いたい」
「……っ」
「なあ、真名…教えてくんねえ? オレだけに?」
「―――E…」
「ん? なに?」
「……… 教えると、思うかあ―――!! しかも貴様などに―――!!」
「えっええっ、なっなんだよ痛え! カラドボルグだすな! わかった! 悪かった! 聞かないから! しばらくは!」
「しばらくってなんだ―――!! 永遠に言わないわ―――!!」
「はっはあ、はあ、あっぶねー…今さら座に還す気かよアイツ。相変わらずぶっ飛んでるな。まあ、そこが気に入ってるけど。それにしても…『E』か、エ…なんだろな」
 高いビルの屋上に柄の悪いしゃがみ方でニヤつく青い英霊は、これは意外と早く知れるかもしれない、とほくそ笑んだ。
 他の誰よりも早く、アイツの気を惹きたい。
 彼は真面目だから、きっと最初にそんな目で見た男しか見えなくなるに違いない。
 他の誰よりも早く彼を手に入れるべく、赤い魔槍を持つ青い男はゆっくりと立ち上がった。




―――おわり。

ウチのアーチャーはいつだって皆にモテモテというお話でした。そして競争が激しいほど燃えるタチの兄貴が動き出します。舌舐めずりしながら。何も知らないアーチャーさんはすぐに追いつかれ食べられてしまうのでしょうねふっふっふ…。
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無題

ありがとうございます!ありがとうございます!
ディルムッドとの絡みが1番好きです
by 匿名 2015/10/26(Mon)17:31:28 編集

匿名様

コメントありがとうございます。お気に召していただけて何よりです。
2015/10/26 19:22

無題

とてもよかったです!
by 朔紅 2018/12/12(Wed)17:37:11 編集

朔紅様

ありがとうございます!!
2018/12/12 17:42
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腐妄想
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5次赤弓さんにはあはあする成人女子。ツイッターはコチラ
もっぱら脳内で繰り広げられる妄想に耐え切れず、時々文章にして垂れ流している。
最近ではマーベル映画と今さらながらにジョ〇ョの承太郎さんにもハマっている。どうしてこう高身長でムキムキで低音ボイスの男ばかりなのか。

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